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そこはかとなく可笑しい「1996年 前田隣の会 国立演芸場」
※1996年4月30日号マンスリータカミツ63号の転載です。
(一部変更)
岡町高弥
ここだけの話しだが、俺が病気になったのはあるライブの毒気に当てられたからなのだ。
食べ物にあたるというのはよくあることだが、ライブに当たるとは思わなかった。
そのライブとは、4月10日に国立演芸場で見た「前田隣の会」である。
前田隣(マイダーリン)って誰?といわれそうだが、そう思って当然、俺もよく知らなかったのだから。
昔、昔、「ナンセンストリオ」という人気コントグループにいた人。
「赤あげて、白あげないのに赤あげない」などと旗振り体操のコントをやる人といえば多少わかってもらえるかもしれない。
まあ、そんなことはどうでもいいや。
とにかく、このライブが濃いのだ。
見渡せば、パンチパーマの頭のおっさんやら、スナックのママと思しき玄人筋のお客ばかり。
何の革だかわからないテカテカのバックを持っている客がやけに多い。
このただならぬ客席同様、舞台の上では、マギー司郎をへたくそにしたようなとっつあんが前説をやっていた。
誰なんだおめえはと思っている間もなく、いきなり「では、トップバッターのマイウエイ昌彦さんどうぞ」となる。
コミックマジックと銘打ってはいるが、あっけらかんと単純な手品を繰り返しながら舞台をニコニコと駆け巡るだけ。顔は、ダチョウ倶楽部の上島竜平を太らせた感じ。
どうなるのか思っていると顔を真っ赤にさせながら道具を片付けて司会者に早変わり。
なんなんだと思うや否や続いて前田隣登場。
意外なほどガタイがいい。
病み上がりらしいのだが、少し猫背に喋る姿が実に絵になる。
「えっへへ、いやあ、もう再婚しましてですねえ」
「お金ないんですよ、祝儀おいてってください」
「シャレになんねいですから」。
板の上でしゃべりまくる前田隣の雰囲気が誰かに似てるぞと考えていたら、合点がいった。
まるっきりビートたけしなのだ。
いや、正確に言えば、たけしの原型が前田隣なのだ。
自虐的な喋り、絶妙なボケ、そして毒舌、たけしの源流である浅草芸人のアクの強さを前田隣はいかんなく発揮してくれた。
で、漫才のふじ健介・東京助となる。
一見するとサラリーマンと見まがうほどの平凡な二人。
「それでは最後に私の歌に合わせて相方が踊りをお見せします」となる。
すると、マイクを持って一人が「大阪しぐれ」を歌いだすともう一人がスタンドマイクに背広を引っ掛け、それを女性に見立て一人チークダンスを始める。
歌が二番三番と進むに連れダンスの動きが卑猥になる。
つまり、手の動きがだんだんしたをまさぐるようになり、その手を違う手でピシャリとやるのだ。
なんだか場末のスナックで宴会芸を見せられているような気持ちになってくるから不思議だ。
その次に登場したのが、コントくれない組。
女二人でパンツを見せたりするも至極まともな芸。
仲トリの東京ボーイズになると大御所といった趣あり。
仲入りをはさんで席に戻るとお客の三割方減っている。
けれど、後ろを振り向くとさっきまで舞台にいた芸人が着替えて舞台を見守っているのだ。
ここはプロレス会場か。
さて、後半は華々しくゲスト登場となる。
誰が出るのかと思いきや、「○○さん、どうぞ」と前田隣が叫ぶと厚化粧のジジイ顔した有名歌手がいそいそと舞台に上がっていくではないか。
まさか歌わねぇだろうなと思っているとあにはからんや、いつのまにかマイクを持って歌いだすではないか。
ブーツを脱いだせいもあり、その歌手が恐ろしく小さく見えたのには驚いた。
加えて白い靴下が哀れ。
でも、きっちり持ち歌を3番まで歌って帰っていった。
やっと後半かと思っていると今度は前田隣の師匠にあたるコロンビアトップが登場。
何を言うのかと思いきや選挙に落ちたことや福祉の話しをダラダラ話して下がっていった。
「師匠来ていただいて感激です」と言っていた前田隣がコロンビアトップが帰った途端、
「まったく人の会に出て15分も喋るんですから迷惑なジジイです」
と嬉しそうに話すところがまたよかった。
そして、本当の後半、マジックのドリーム和義登場。
いきなり名前が怪しい。
顔には赤い頬紅、頭は不自然なかつらという出で立ちで「銭形平次です」と名乗る。
「今から舟木一夫の平次のテーマソングを流しますから『銭がぁとおぶ』の歌詞に差し掛かったらいっせいにおひねりを投げてください。では、おひねり用の紙を配ります」
と説明を終えると客席に降りてきて紙を配りだす。
歌が流れ、小道具を使いながら妙なあて振りを始める。
「今日も決めての銭がぁとおぶう」に差し掛かる前に舞台めがけて銭が飛んだ。
もちろん、この俺も銭を投げたが、会場のお客さんも皆嬉々として銭を投げ入れていた。
3番になると曲の頭からおひねりの雨あられ。
ドリーム和義がどでかい虫取り網を持って右往左往していたのが忘れがたい。
最後にマジシャンですからといいながら胸からハトを取り出し、そのハトが壁にあたって落ちてしまうという意外なおちまで披露してくれた。
続いて目にまぶしい真緑のダブルのスーツで春風こうた・ふくたが登場。
テンポも間もよくどうして今まで売れなかったのかと不思議に思うぐらいだ。
真っ当な漫才だと見ていると突然、右側の男が左側の相方の肩に噛み付くではないか。
しかも何度も噛み付くのだ。
何の脈絡もなしに。これには驚かされた。
参った。
でもって、大トリの「前田隣と隣組」登場。
まず、元ミュージカル女優の女の子とドリフターズの弟子だった男が忍者の格好でコントを見せてくれる。
忍者になるためには瞬時に顔を変えなければならないというわけでマッチ棒を使ってお互いに変な顔を作りあう。
そこに満を持して前田隣が現れる。
忍者になるためにはそんなんじゃ駄目だ、早口言葉が必要だと、やおら、「親亀の背中に子亀を乗せて」とやり始める。そのタイミングといい言い方といい何とも可笑しいのだ。
「おまえらやってみろ」といって突っ込む姿も年季が入っていてそれはそれで楽しい。
お客のリクエストに応えて亀をシェットランドシープドッグに置き換え挑戦するもあえなく降参。
「赤上げて白下げないのに白上げない」の旗上げ体操もたっぷり見せてくれたが、何をやってもそこはかとなく可笑しい前田隣の存在感に圧倒された。
それにしても芸もあれば顔もいい女の子がなぜ前田隣の弟子になっているのか最後まで謎だった。 |